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ヴァシュティ・バニアン
シャ−リ−・コリンズ&アルヴィオン・カントリ−・バンド
ア−ニ−・グラハム
トレイダ−・ホ−ン
ハンブルバムズ
オベロン
アン・ブリッグス
ジョン&ビバリ−・マ−ティン
ストロウブス
サザ−ランドブラザ−ス&クウィバ−
ヘロン 近日登場予定
フィリップ・グッドハンド・テイト  
ゴシック・ホライズン
キャサリン・ハウ

 ヴァシュティ・バニアン

噂には聞いていた、そして伝説だとも知っていた。 それは誰しもが近付くことを躊躇してしまうような聖域。 しかし、幸運な時は訪れます。 某月某日、最近よく通っている博多の某レコ−ド屋さんで、このCDを見つけたときの喜びと驚きは言葉にならないほど。 実は、以前訪れた時にアナログ盤がディスプレイされていたのです。 でも、そこには後光が射すような静粛な空気が流れていましたので、手に取る事はおろか側に寄る事も出来ずに、ただ遠くから眺めているだけでした。 勿論、私などが手に入れることができるような金額では無いことは最初から解かっていましたので。 ですから、ほのかな期待は抱いていたのです。 もしかしたら、CDが出るかもしれないと。 で、その期待は見事に的中したのですね。 この果報者。 ヴァシュティ・バニアン、名前からしてこれは只者ではないぞという雰囲気があるでしょう。 しかし、優雅で華麗で清楚な音楽はその比ではないのです。 初めてその清らかな歌声と天使のような響きを耳にすると、すべての言葉を失ってしまうような素晴らしさに溢れていました。 心洗われるなんてものじゃあない。 これはもう宗教の域にまで到達したかのような神々しさがあります。 ヴァシュティ・バニアンは単なる音楽の領域や臨界点を越えてしまった。 それくらいの極めつけの名盤です。 おそらくは、メロウ・キャンドル、チュ−ダ−・ロッジ、スパイロ・ジャイラの三美神や、ティッカ・ウィンダ、マリ−・セレステ等の数ある伝説的なブリティッシュ・トラディショナルの中でも極めつけの至宝の逸品でしょう。 それはもう間違いない。 ただ、私如きが、こんな天使のささやきのようなヴァシュティ・バニアンに近付いてよかったのでしょうか。 古くから、バビロンの秘宝のように大切にされていらしたオ−ナ−や、類を見ないほど貴重なアナログであることを当時から予見していらっしゃった、先見の明の持ち主の方々から見れば、おまえ達、頭が高い、控えおろうといったような複雑な心境だと思うのですね。 本当にその点は申し訳ないなあと思いますし、自分の幸運を神に感謝したいくらいなのです。 私自身、このアルバムに関しては、おそらく何年も手に入らないとだろうなと思っていましたので。 彼女の声は、ブリティッシュ・トラディショナルの歌姫にしては珍しいほど、甘く柔らかくそして、素朴です。 トラッド独特な歌いまわしやハイト−ンは殆ど感じられずに、むしろ清楚で静やかに淡々と歌っていました。 そこがまた凄い。 一点の曇りも無く純粋な歌がこんなにも魂を触発してくれるものだとは知りませんでした。 このアルバムで歌われる田園の日常的な日々を描写したような、素朴なアンサンブルと審美な情景の中に、私たちはヴァシュティ・バニアンの神がかり的な情念を感ぜずにはいられません。 ピアノやフィドルやマンドリンやストリングスといった古典的な楽器に彩られて、春風のように爽やかな彼女の世界が展開し、ただ感動に震えるのみなのです。 そして、ヴァシュティ・バニアンを取り巻く楽器たちも優しさに溢れていました。 ブリティッシュ・トラディショナルの作品の中で最高の逸品を選ぶとなると、誰一人躊躇無くこのジャスト・アナザ−・ダイアモンド・ディを選ぶ事でしょう。 もしかしたら、それは伝説というよりも真理なのかもしれません。   

シャ−リ−・コリンズ&アルヴィオン・カントリ−・バンド

永い道のりを歩いてきてふと立ち止まる時。 あるいは、迷いながら幾つかの中から道を選ぶ時。 自分自身の選択が正しかったのか、誤っていたのか、ふと想う時があるでしょう。 人生とは迷いと決断の連続だから。 でも、そんな時、きっと優しさに溢れた風が吹いてくれる、天の助けのようにそれでいいのだと。 そう、清々しい彼女の歌がそんな風に後押ししてくれるんです。 そして、振り返ってみると、人生は果かなく短いものかもしれないけれど、それでも私たちは生きて行くんだという強い決意が漲ってくる。 ブリティッシュ・トラディショナルの音楽や哀愁を帯びたシャ−リ−・コリンズの歌には、そんな希望を抱かせてくれる心洗われる旋律があります。 清楚でありながらその美しく力強い世界は、数多いブリティッシュ・トラディショナルの中でも至宝の如く輝きを放っていました。 何故、これ程までに心揺さぶられるのか、魂を触発されるのか、遠くは離れて日本に住む私たちには理解しろといっても無理なのかもわかりません。 でも、ただ1つ言えるのは、その清らかな世界で永く継承されてきた真理やメロディ−が希望へと導いてくれるということ。 愁いや陰りの荒野に光が差している。 そんな、深遠の淵から希望の未来へと導かれる優しさが感じられるのです。 だから、暗鬱な空や肌をさすような北風の中でも明日を信じられる。 ブリティッシュ・トラディショナルの原点はそこにあるのだと思います。 シャ−リ−・コリンズ&アルヴィオン・カントリ−・バンドとアシュリ−・ハッチングスが出会ったこの素晴らしいアルバムには、その魂が息づいていました。 ノ−・ロ−ゼスという粋なタイトルのこの作品は、数多い名作を届けてくれたトラッド界の歌姫、シャ−リ−・コリンズの最高傑作といっても差し支えないでしょう。 まさに、それは遠い彼方より届けられた爽やかな風。 1971年から送られてきた至高のアルバム。 時に清楚に、時に力強く、総勢26名ものミュ−ジシャンが織り成す重厚な旋律をぜひ堪能頂きたいと思います。

  ア−ニ−・グラハム

霧の彼方から突然に光が差し込むようなような世界。 それはイギリスの荒野を渡る風のように新鮮で爽やかなものでした。 ア−ニ−・グラハムは勿論イギリスのお方なのですが、その醸し出す雰囲気はさても土の香りのするアメリカン・テイストだと思います。 この彼にとって唯一のソロ・アルバムは1971年に慎ましくリリ−スされていました。 言わずと知れた幻の名盤として、ブリティッシュ・フォ−クのファンの間では長い間語り継がれてきましたが、近年めでたくCD化で再発されて喜んだ人も多いことでしょう。 いや-、それにしてもこのアルバムを求めて全国を彷徨った人たちはかなり多い筈。 それが、こうやって簡単に手に入るようになったんですね、つくづくいい時代になったものだと思います。 彼の作り出す豊かな旋律は、ニ−ル・ヤングとかCSN&Y辺りの音楽にイギリスらしい暗さや陰りを加えて、少し軽めの爽やかタッチに仕上げるとその雰囲気に近くなるのではないでしょうか。 バックを流れる旋律は明らかにスワンキ−な香りが高くて渋いのですが、ギタ−の乾き具合や骨太ながらも霞のかかったようなヴォ−カルは、爽やかなブリティッシュ・フィ−リングでした。 中にはもろ、ニ−ル・ヤング的な歌やボブ・ディラン風の歌も何曲かありますが、それだけに留まらず良質のアメリカン・ミュ−ジックやブリティッシュ・トラッドを聴かせてくれます。 ア−ニ−・グラハムの音楽には朴訥でいて暖かい、そんな彼の人柄が滲み出ていて心に染みるのですね。 カリフォルニアのそよ風のように爽やかなとまでは行きませんが、イギリスのミュ−ジシャンとはとても思えないような土臭さと素朴な響き。 実はそれもその筈でありまして、バックを努めるのがあのブリンズレ−・シュワルツなのですから当然と言えば当然だったのかもしれません。 ア−ニ−とブリンズレ−の接点は良く解からないのですが、彼等とジョイントすることによって非常にアメリカのカントリ−音楽やスワンキ−な音を強く意識した内容となっています。 また、ジョ−・コッカ−のバックを努めた事もあるとのことなので、なおさらという感は否めません。 実にアメリカ周辺の土壌が出来上がっていたのですね。 少し色合いは違うとは言えボビ−・チャ−ルズの名盤ボビ−・チャ−ルズ・アルバムにも匹敵するような空気が流れていました。 これを名盤と言わずして何を名盤と呼ぶのかと言ったところでしょうか。 素晴らしさの極みだと思います。 その実直な音作りは彼のナイ−ブな感性をそのまま表しているのでしょう。 聴く人に静かなる感動と神聖な空気を与えてくれました。 ジャケットのくすんだ感じも何とも素晴らしい。 見事な色合いでした。 宝石の如き音楽の宝庫1970年代にあっても、音の方もジャケットも素晴らしい作品というのはそんなに沢山はありませんよね。 そういった意味で是非とも手元に置いておきたい素晴らしい作品ではないでしょうか。 簡単に手に入るようになってはいるものの、勿論探し回らないといけないのでしょうが、その価値は充分にある名盤だと思います。

  トレイダ−・ホ−ン

朝の光の中で、こんな素敵な音楽に囲まれたらきっとその日一日幸せな気分になれることでしょう。 トレイダ−・ホ−ンの音楽には草原を渡るような爽やかさと霧のかかったような不思議な雰囲気がありました。 それは、アイルランドの冬に荒野を閉ざす朝もやのように神秘的なものです。 トレイダ−・ホ−ンのことを焦点が定まらない中途半端なブリティッシュ・トラディショナルと位置付ける人も多いのですが、どうして、どうしてその曖昧な香りの中にこそ彼等の魅力が隠されていました。 数多いトラディショナルのアルバムの中でも名盤の1枚に数えられて然るべき作品だと思います。 もともと彼等のお膝元ド−ン・レ−ベル自体がファジ-なレ−ベルであったので、そんな曖昧な印象も強いのでしょうがトレイダ−・ホ−ンの音楽を聴きこんでいくと、ひとつのカテゴリ−では決して括れない柔軟な味わいがあることに気が付く筈です。 確かに純粋なブリティッシュ・トラディショナルを聴かせてくれたかと思うと、まるでボサノヴァのように軽快なフォ−クソングやグッとくるブル−スもあったりして、なんか掴み所がないなあという焦燥感を伴うバンドでしょうか。 それは、多分にリ−ダ−のジャッキ−・マッコ−リ−の曖昧な感性に起因するものでしょう。 優れた才能を持ちながら決してメジャ−には成りきれなかった不遇な人なのですが、彼自身はそれでその陽だまり的な感覚が幸せだったのかもしれません。 様々な多面性の音楽と温かみを帯びた曲調を有するトレイダ−・ホ−ンの旋律の中で、もっともブリティッシュ・トラディショナル的な感性を見せてくれたのが女性ヴォ−カルのジュディ・ダイブルでしょう。 もともと彼女はブリティッシュ・トラディショナル・バンドの名門フェアポ−ト・コンベンションの出身で、このトラディショナルの世界で正統派としての伝統を受け継ぐべく資質と歌声を持ち合わせていました。 あくまでも清らかなジュディの声は、何処へいってしまうのか分からないようなトレイダ−・ホ−ンの音楽を、深遠なるトラディショナルの領域に踏みとどまらせていたのです。 それは野を渡る風のように爽やかでした。 まさにトラディショナルを歌う為に生まれてきたような清楚な響き。 ただ、そんな彼女と時としてポップな感覚を見せるジャッキ−・マッコ−リ−との間に深いギャップがあったのも事実で、バンドはこのアルバム1枚を残して敢え無く解散してしまいます。 何とも残念な事ですが根本的に音楽に対する相違点が多すぎたのでしょう。 まるで彼等の音楽のように曖昧な結末を見せながら霧の彼方へと消えてしまいました。 まるで、それが彼等自身の運命でもあるかのように。

 ハンブルバムズ

世の中にこれは凄いという名盤は数々ありますが、このハンブルバムズのアルバムもそういった栄えある作品に値すると思います。 何といってもこのあとに花開くスティ−ラ−ズ・ホィ−ルを率いたジェリ−・ラファティ−が、その前進のバンドとして才能を磨き上げたハンブルバムズはブリティッシュ・トラディショナルの中でもひときわ輝いていました。 まっ、霧のかかったような非日常的な歌は相変わらずなのですが。 スティ−ラ−ズ・ホィ−ルで彼が見せてくれたアクが強くて独特な世界観と個性的な旋律も、まだここでは姿を見せずに実に審美で優雅な調べに終始しています。 スティ−ラ−ズ・ホィ−ルの不思議な空気に引かれた人には多少の物足りなさを感じることも事実なのですが、ビ−トルズを解散する前のジョン・レノンのように狂おしさと心洗われるような歌が同居しておりました。 あの、鼻にかかるような歌い方は一度でも虜になると病み付きになってしまいますよね。 またジョン・レノンによく声が似ているんだこの人は。 このハンブルバムズにしてもスティ−ラ−ズ・ホィ−ルにしてもその豊かな才能から、もう少し違った方向へ進んでいたならビ−トルズの正当なる継承者と成り得たのかもしれません。 ジェリ−・ラファティ−は充分にその類稀ない資質を有していたと思います。 ところで、このニュ−・ハンブルバムズというアルバムは彼等の2枚目となる作品なのですが、彼等の核となるジェリ−・ラファティ−が参加したのはこのアルバムからとなっています。 彼の加入によりハンブルバムズは一気に開花した感がありました。 3作目のオ−プン・アップ・ザ・ドア−でも名コンポ−ザ−振りを際立たせているのですが、爽やかさとか清々しいブリティッシュ・トラッドらしいイメ−ジから脱却し、よりア−シ−な方向へと進み始めていました。 それは、スティ−ラ−ズ・ホィ−ルで見せることになるスワンプロックとトラディショナルの融合した旋律の始まりだったのかもしれません。 また、彼お得意のビ−トルズを髣髴とさせるメロディ−ラインも随所に散りばめられていて、私たちは余りのその心地よさに打ちのめされてしまいます。 それこそは意外な出会いの始まり。 だからこそ、古典的なコンセプトと斬新な感覚を内包した彼、ジェリ−・ラファティ−は夢の旅人のように私たちをまだ見ぬ世界へと誘なってくれるのでしょう。 

  オベロン

限りなく奥行きの深いブリティッシュ・トラディショナルの中でも、天文学的な価格のついたことでその誉れも高い逸品がこのオベロンの名作-真夏の夜の夢-でした。 一説によるとオリジナル・アルバムは車を購入できるくらいの値段であったと聞いて、ホンマかいなとわが耳を思わず疑ってしまったくらいです。 確かに特異なジャンルであるこのブリティッシュ・トラディショナルに於いては、その希少価値も影響をして6ケタの値がつくということも有り得ないことはありません。 ただ、私が何度も言っているようにそのことと作品の質とはまったく別問題なのだと思います。 希少価値のあるものだから内容までが素晴らしいとは限らないのですね。 このオベロンにしても正規のデビュ−は行っておりませんで、デビュ−前に作った彼等のたテスト盤がそのリリ−ス枚数の少なさ故に高額な値段がついてしまったのです。 いわゆる幻の名盤という奴ですな。 まっ、確かにコレクタ−諸氏を翻弄するようなシチュエ−ションですよね。 但しこの真夏の夜の夢という作品はその希少価値もさることながら、とてもテスト盤とは思えないような内容の素晴らしさがさらにその価値を高めています。 特にアルバムをスタ−トするNottanum Town の崇高なまでの美しさといったらもう溜息が出そうなほどでした。 哀愁のある神聖なフル−トの音色が素朴なアコ−スティックギタ−やパ−カッションと絡み合いながら幻想的な歌を創り上げています。 何千年も前から伝えられてきたような響きが私達の眠っていた感性を呼び覚まし、荒野に流れる歌や風や心や神々しきものを聴かせてくれました。 時にシュ−ルに、また時に静粛に飛び回る音の群れたち。 オベロンはトラディショナルというよりもジャズやプログレッシヴロック、それにサイケデリックやアヴァンギャルドに近い思想を持っていたのかもしれません。 ひと括りのジャンルでは束縛できないような自由な発想と美しさ。 それはとてもジャズに近いもの。 そういえばジャズのスタンダ−ド、サマ−タイムを幻想的に粛々と演奏したりもしています。 それも見事なほどにシュ−ルに。 フル−ト絡みのシュ−ルな音楽ということではブル−ス・プロジェクトとも共通する味わいを持っていました。 言うまでもなくオベロンの饒舌なフル−トの音色は彼等の音楽の根幹を成すもの。 また、ジャズのミュ−ジシャンのようなインプロヴィゼ−ションの質の高さは彼等の実力を反映するものでしょう。 私はそんな秀逸なオベロンが何故テスト盤だけのリリ−スだけで終わってしまったのか理解できません。 それは、私たちにブリティッシュ・トラディショナルの伝説と奥の深さをまざまざと見せつけるものであったのです。

 アン・ブリッグス

ブリティッシュ・トラディショナルの最大の歌姫にして、最高の歌織人にして伝説の人。 果かない夢を織り込むように歌にするアン・ブリッグスには、そんな輝かしい賛辞よりも沸き出でる泉のような清楚な言葉の方が似合っているのかもしれません。 トラッドの大御所バ−ト・ヤンシュに見出されてからというもの、ブリティッシュ・トラディショナルの隆盛に貢献しその中で重要な役割を担っていきます。 1960年代のブリティッシュ・トラディショナルを語るときに、サンディ−・デニ−と同じく彼女の存在抜きには語れないでしょう。 また、ジャケットで見てもらえばお分かりだと思いますが、トラッド界切っての絶世の美女でもありました。 天は彼女に二物を与えてしまったのですね。 しかし、不思議な事にアン・ブリッグスはブリティッシュ・トラディショナル界に於いてかなりのキャリアを持ちながら、自らのアルバムをリリ−スするということは長い間ありませんでした。 1960年代はというもっぱら裏方に徹することが多かったのです。 1970年になってやっと最初のソロ・アルバムを発表し、翌年にザ・タイム・ハズ・カムという名作を届けてくれますが、結局のところ彼女のアルバムはというと、このたった2枚だけだったのです。 同じ女性ヴォ−カルといってもブリティッシュ・トラディショナルの3美神の歌姫達や、マリ−・セレステやティッカウィンダの歌姫達と較べると極めて素朴な印象を受けてしまいます。 彼女の人間性がそうさせるのか決して派手さはないけれど、その美しい旋律の中に朝日のような爽やかさが輝いていました。 アンサンブル無しの弾き語りのみという清楚な歌は、とても一人だけで歌っているとは思えないほど広がりの大きさを感じてしまうのですが、それは偏に彼女自身の幅広さを表すものでしょう。 ブリティッシュ・トラディショナルの歌姫アン・ブリッグスの作品は、荒野を渡る風のように私達の頃を清らかな大地へと導いてくれるかのようです。 彼女は今頃一体どうしているんでしょうね。

 ジョン&ビバリ−・マ−ティン

このジャケットの眩暈がするほどの美しさを何と例えたらよいのでしょう。 まるで写実派の重厚で美しい絵画のようにその色彩や趣や素晴らしさが際立っていて、私たち見るものの心を捕らえて離しません。 残念ながら私の持っている貴重なアナログ盤は年期が入っているので所々に色のくすみが見られます。 完全な状態のジャケットだとさぞや美しい事だろうなと思ってしまいますが、そういうものは相当な値段がついているでしょうから、そんなに簡単にはお目にかかれませんね。 そして、そのジャケットの美しさもさることながら音の方も本当に素晴らしい。 このジョン&ビバリ−・マ−ティンのスト−ム・ブリンガ−という名盤は、彼等の記念すべきファ−ストアルバムに当たります。 とはいっても、この次のザ・ロ−ド・トゥ・ルインという作品をリリ−スして何時の間にか歴史の彼方へ消え去ってしまったので、貴重なファ−スト・アルバムということにもなるのでしょうか。 さて、このスト−ム・ブリンガ−ですが、ブリティッシュ・トラディショナルの作品というよりも感覚としては、ウッド・ストック一派のハ−トウォ−ミングなレコ−ドに共通する部分も多く持っていると思います。 実は、それもそのはずバックにはあのジョン・サイモンやレヴォン・ヘルムやポ−ル・ハリス等のウッド・ストックの重鎮達が参加しているとのこと。 彼等とジョン&ビバリ−・マ−ティンの接点は解からないのですが、ウッドストックとブリティッシュ・トラディショナルの素敵な出会いがこの宝石のような素晴らしい作品を生み出したのです。 淡々と進んでいくような時間を閉じ込めたような、粛々とした音はまさにウッド・ストックならではのもの。 バックを努めるリズム陣の大きなうねりと彼等の静やかな旋律が見事に調和して、絶品と呼べるようなアルバムに仕上がっています。 トラディショナルの伝統を感じさせるジョン&ビバリ−・マ−ティンの程よい透明感や凛とした美しさもその素晴らしさを際立たせています。 そういえば、アメリカ音楽への傾倒という点ではゲイ&テリ−・ウッズと共通する部分も多く持っていましたね。 彼等が生まれ育ったスコットランドの美しい原野を思わせる清楚な響きは、私達の旅心や郷愁さえ擽ってくれるのです。 そのジャケットの美しさや音楽の素晴らしさが相まってマニア延髄の逸品なのですが、多分CD化されていると思いますので安く手に入りますから、探してみる価値は絶対にある名盤だと思います。

 ストロウブス

静かなる大地の果てより、静かに語り来る風の音。 人は過ぎ去った日々の証として、思い出をその風に乗せ彼方へと運ぶ。 やがて、山や森を越え、大海原へと漕ぎ出す船のように、それは果てしなく続いていくのです。 ストロウブスの清楚な世界に触れるとき、私たちは言い知れぬ心の安らぎを感じてしまう。 まるで、約束された静寂の世界のように。 プログレッシヴとトラディショナル・ミュ−ジックの狭間で、決して観念的過ぎず、かといってコマ−シャリズムにも迎合しない、そんな上質の拘りが感じられるのがストロウブスなのです。それは、パ−ト・オブ・ユニオンという歴史的な大ヒット曲を送り出したとしても、いささかも変わることはありませんでした。 勿論、一気に注目を浴びるような存在になったのですから、彼ら自身の中で相当なプレッシャ−はあったのでしょうが。 また、リック・ウェイクマンの影響が強かったプログレ時代にも、ストロウブスとしてのトラディショナルな色彩は忘れていませんでした。 デイヴ・カズンズは絶対的な価値観を携えて、ストロウブスに幻影を映し出したのです。 それにしても、当時のパ−ト・オブ・ユニオンのヒットは凄まじかったですよね。 日本ではこのヒットによって初めてストロウブスが認知されたのです。 私自身もパ−ト・オブ・ユニオンがヒットするまでは彼らの存在に気がつきませんでしたから。 ストロウブスはこの名曲によって、自らの感性による芸術性を追求できるという大きなハ−ドルを越えたのです。 それは取りも直さず、一流のバンドの仲間入りをしたといっても良いでしょう。 彼らの繊細な感性は絹の糸を使った刺繍のように音を絡めていきます。 静寂な世界に雫が滴るように。 1972年リリ−スのグレイヴ・ニュ−・ワ−ルドから、このアルバムと前後した数年間が彼らの全盛期といっても差し支えないでしょう。 変貌を続けたブリティッシュロックのなかにあっても、彼らの幻想的な旋律は荒野を渡る風のように、私達の琴線を揺るがしてくれました。 それは、まるで永遠の祈りのように心を包んでくれたのです。

 サザ−ランドブラザ−ス&クウィバ−

サザ−ランドブラザ−スとしてのオリジナル・セカンドアルバム、ライフボ−トは1972年に英国でリリ−スされていますが、同じ年にサザ−ランドブラザ−ス&クウィバ−という名義で、これまた同じくライフボ−トという同じジャケットのアルバムもアメリカでリリ−スしています。 単純に考えるとレ−ベルの違い程度で済んでしまうのですが、実はこの2枚のアルバムではほとんどの歌が重複していないという不思議な事態になっていました。 何でこういった事になってしまったのか知る由もないのですが、ロッド・スチュワ−トも取り上げたあの名曲、セイリングはクウィバ−との競演の方のアルバムにも収録されています。 オリジナルは勿論こちら側。 音の広がりや深さやアルバムとしての重厚さで言うと6人編成のクウィバ−ですが、ブリティッシュ・トラディショナルらしい清楚な雰囲気は、コンビとゲストで創り上げたサザ−ランドブラザ−スの方に部があると思います。 フォ−クロック調の歌とトラディショナルが見事に融合された所謂イギリスの中のアメリカというヤツですね。 燐として澄み切った空気の中に何処となく英国らしいくすみが伺える心洗われるアルバムなのです。 ジャケットも素晴らしい。 こういった感性というのは、英国独特な湿り気のある風土が生み出すものなのでしょう。 一方のクウィバ−の方は、アンサンブルがタイトでロックンロ−ルしており、西海岸風な爽やかなフレ−バ−が満載です。 コ−ラス辺りも明らかにウェスト・コ−スト、それも一連のアサイラムのア−ティスト然としていますよね。 そういえば、アサイラムの隠れ名グル−プ、サウザ−・ヒルマン・ヒュ−レイバンドにも共通するような、ア−シ−なフィ−リングと乾いた心地よさを感じてしまいました。 してみると、明らかにアメリカでの成功を狙ったという作品なのでしょうか。 商業的な成功は納められませんでしたが、彼らのブリティッシュ・トラディショナルバンドとしての地位は確立できたと思いますね。 また、どちらも名作の誉れ高い逸品であり、極めてレアな作品なので、アナログ盤になると現在ではほとんど入手困難な状況です。 見つけたら即買いという名盤ですね。 幸いCD化はされているので、取りあえずはそちら側から揃えたら如何でしょう。

 サザ−ランドブラザ−ス

川を渡る風のように清楚な響きと神聖な旋律に彩られた逸品。 それこそがサザ−ランドブラザ−スのセカンド・アルバム、ライフボ−トの世界です。 クウィバ−と共同名義で創り上げたアルバム、ライフボ−トに較べると、明らかにこちらの方がブリティッシュ・トラディショナルの香りに満ち満ちていました。 また、クウィバ−との名作よりも1年早く1972年にリリ−スされています。 前述したように、この2枚のアルバムの因果関係はまったくの謎なのですが、言葉を無くしてしまうほどの素晴らしさはどちらの作品にも共通していました。 名曲セイリングは、このアルバムの方が力強く琴線に触れるような創りになっています。 ロッドのセイリングもいいですが、やはりこの本家には深い味わいがありますね。 それは、素朴であることの愛おしさをかみ締めるように秀逸な佳曲に仕上がっていました。 英国気質に飾られた伝統的なトラディショナル音楽を求めるならば、やはりこちらのアルパムの方をお薦めしましょう。 時にフォ−ク・ロックの芳しさ、また時にはトラディショナルな調べ。 それらが内包されてサザ−ランドブラザ−スの素晴らしい結晶となっています。 このアルバムから送られてくるのは、切なくて美しすぎるほどの時間。 そして、澄み切った空気のもとで心を洗われるような旋律。 私たちは、その中で佇み想いを馳せるのです。 まるで荒野を渡る風のように。




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