林 環樹さんの歌には、私たちが何時の間にか忘れてしまった想いを蘇らせてくれる心地よさと情熱があります。 人生の何処かに忘れてきたあの想い。 過ぎ去ってしまったものを何を今更と躊躇してしまうのですが、時には熱く、また時には静やかに歌われる彼の世界には、確かに滾っていた私達の時代の断片が隠されているのです。 そんな世界を拾い集めるうちに、また歩き始めるための衝動が生まれました。 それは彼の意図したこととは別なのかもしれませんが。



友よ、過ぎ去りし想い出を共に語ろう。 少しばかりのお酒と懐かしい歌を用意して。 私が彼の歌に出会ったのは、まだほんの数ヶ月前の事。 しかし、もう何年も前から聴き続けてきたような懐かしさを感じてしまうのは何故なのでしょう。 確かに若い頃に良く聴いていた音に似ている。 あの時代の情熱が溢れている。 純粋な感性が爽やかに感じられるのです。 また、やわなだけではない男の気骨も彼の持ち味。 ナイ−ヴな心とハ−ドボイルドな面持ち。 それも彼の魅力なのです。 扉を開けて、射し込んで来る光を感じる。 林環樹の豊かなメロディ−ラインにはそんな煌めきがあります。 時には骨太に、またある時は繊細に。 素晴らしいバラ−ドにしても激しいロックン・ロ−ルにしても、切ないブル−スにしても、彼の向こう側にそんな時代が見えてくるような気がするのです。 それは私だけのことなのでしょうか。 ご本人もボブ・ディランやトム・ウェイツ、そして、ニ−ル・ヤングを好きなア−ティストにあげていらっしゃるように、今を伝える音というよりも脈々と受け継がれてきた素晴らしい音楽の歴史が息づいているように思います。 1970年代から届けられた手紙のように。 私が1番最初に感じたのはそういうことでした。 また、じっくりと寝かされた良質のスコッチのように丹念に育てられた10曲の歌には林環樹の想いが宿っているのではないでしょうか。 そして、とても自主制作盤とは思えないほどの完成度の高さにも驚かされます。 事実、メジャ−デビュ−をしている多くのア−ティストよりも優れた部分があると思います。 彼の歌を耳にする時、私は私なりの過ぎ去った人生が浮かび上がって胸を熱くしてくれるのです。 ボブ・ディランやニ−ル・ヤングやトム・ウェイツがそうであるように、自分自身を投影できる音楽。 林環樹の世界にはそんな優しさや情感がありました。 このアルバムの中でも1曲だけボブ・ディランのナンバ−、天国への扉-ノッキン・オン・ヘヴンズ・ドア−を取り上げていらっしゃいますが、これが実に良い。 原曲のコンセプトを損なうどころかそれ以上の秀逸な仕上がりとなっており、私はあのガンズン・ロ−ゼスの名カバ−にも匹敵すると感じました。 その他の9曲はオリジナルで、先程も言いましたように本当に愛情を持って仕上げられている。 多分、彼にとって9人の子供たちのようなものなのかもしれません。 其々に色々な性格を持ち、様々な人生を歩いていくであろう子供たち。 私たちは、彼と共にそんな子供たちを見つめていきたいと思います。 





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