8 ・ エモ−ショナル・レスキュ−

これもブラックアンドブル−に負けず劣らず渋さの極みと言える一枚でありましょう。 しかしながら、良くも悪くも印象に残りにくい事実は歪めようも無く、名作サム・ガ−ルズとタトゥ−ユ−の間に挟まれて忘れ去られてしまいそうな作品ではあります。
それは、この時期のスト−ンズのロック界に対する曖昧なスタンスと密接に関係していると言えるでしょう。もう、恒に既成観念に対して反逆の姿勢を見せながら突っ走ってきた昔ほど若くは無く、しかしてゆったりと人生を諭すほどの歳も重ねている訳ではなかったし、彼ら自身が立つべき場所を模索していたのではないでしょうか。私自身もかなりのスト−ンズフリ−クではあるのですが、このアルバムに入っている作品を3つ以上挙げろと言われても多分無理だと思います。 だからと言ってつまらないのかと問われると決してそうではないところがスト−ンズの難しいところなんですよ。 時として私達の戸惑った様子を伺いながら、まるでカッコイイとはこういうことさと言っているような気もするんですね。何かこう土壷にはまったような、スト−ンズの魔力に取りつかれてしまうと単純に評価を下せなくなってしまう、その作品が良いか悪いかの問題ではなく、スト−ンズがそれを演っていることがもっとも重要なのだと、何かこう哲学の世界に入り込んでしまいそうなことになってしまうのです。
ここらあたりなぜかしら熱狂的な阪神タイガ−スのファンに似ていますよね。そういえばスト−ンズの場合東京よりも断然大阪のほうが似合っている。 これはどうしようもない事実じゃあないでしょうか。やはり、ブル−スは大阪だ。タコヤキも大阪だ。
という訳で何となく散漫なアルバム紹介になってしまいましたが、この作品のなかではタイトルにもなっているエモ−ショナル・レスキュ−が一番のお薦めでしょうか。 私、この曲を聞くといつも低く垂れこもった曇り空の下、雨の中で車を走らせている情景が浮かんで来るのですが、何故かしらそういったスト−ンズにしては珍しく、フランス映画の世界のような不思議な作品だと思います。 日本語に訳すと魂の救済とでも言うんでしょうか、そのタイトルとは裏腹に地味で素朴で何ともいえない魅力があって聞けば聞くほど奥の深い一曲ですね。ですから、まるでこのアルバム全体の捉えどころのない曖昧な印象はすべてこの作品エモ−ショナル・レスキュ−に起因しているような気がしてならないのです。

 
スト−ンズよもやま話

え-ここで一寸一休みという訳ではないのですが、ラブ・ユ−・ライヴからサム・ガ−ルズにかけての時期に、スト−ンズにとっては極めて重大な事態発生いたしております。 皆さんご存知のキ−ス・リチャ−ド御大将が、カナダにおいてコカイン所持の容疑で逮捕されてしまうのです。 キ−ス・リチャ−ドとコカインの関係なんて皆周知の事実だったので、何を今更という感もいがめませんがやはり罪は罪、一時は相当重い刑が予想されておりましたが、何とかめでたく釈放に相成り世界中のスト−ンズファンはホッと胸を撫で下ろしたことでした。 キ−ス自身もこの逮捕にはかなりショックを受けており、その辺りの遣る瀬無い身上をスト−ン・アロ−ンという名曲に託しております。 ピアノの弾き語りにより切々と哀愁を込めて歌われるこの歌は、朴訥としていながらも胸を打たれる響きに溢れており、当時のキ−ス・リチャ−ドの心情察して余りあるものとなっていたのです。 残念ながら、正規盤は発売されておりませんが、これも数あるキ−ス・リチャ−ドのブ−トレッグの中には必ず入っている名曲です。 確かスト−ン・アロ−ンというタイトルのブ−ト・レッグアルバムが一番のお薦めだったと思いますが。 ところで、この時期のスト−ンズのメンバ−というのは個々がとても危うい関係にあったのではないでしょうか。 前述のキ−ス・リチャ−ドは刑罰を逃れられて音楽活動に身が入りだしたのも束の間、ロン・ウッドと彼のニュ−バ−バリアンズのツア−に出かけてしまい、ミック・ジャガ−との関係もけっして良好な間柄ではなかったような気がいたします。 そんなこんなで、サム・ガ−ルズからエモ−ショナル・レスキュ−にかけてはどうしても散漫な印象を感じてしまうのも無理のない話でしょう。 対照的にニュ−バ−バリアンズのライヴアルバムは中々のものになっております。 こちらもブ−トでしかお目にかかれないのですが、随所に熱い情熱が飛び交っている素晴らしいライヴでした。 興味をお持ちの方はヴァリ−ド・アライヴなんかはお薦めだと思います。

 9 ・ タトゥ−・ユ−

うわ-っ、スゲぇジャケットというのが衆目の一致するところでしょう。 スト−ンズ自身ジャケットに関してはいつも話題を提供してくれたのですが、それにしても永いスト−ンズの歴史の中でもっともエグイデザインなのかなという気がいたします。 夜中に一人では見たくないジャケットですよね。 しかし、音のほうはというと久しぶりでスト−ンズらしい快活なロックン・ロ−ルと、味わいのあるア−シ−なサウンドが復活して、80年代のスト−ンズも期待していいんじゃあないと思わせる快作でした。 何といっても、オ−プニングはその後のスト−ンズのライヴの定番となる名曲スタ−ト・ミ−・アップ。 60年代後半のジャンピン・ジャック・フラッシュ、ホンキ−・トンク・ウィメン、無情の世界やストリ−ト・ファイテングマン、70年代のブラウン・シュガ−、ビッチ、ロックス・オフ、やダイスをころがせ等のような定番ソングが久しく登場していなかったのです。 ですから、このスタ−ト・ミ−・アップの意味するところは、彼ら自身にとっても極めて重要なものであったと思います。 そして、その再出発の1曲目がスタ−ト・ミ−・アップですから、一寸出来すぎのような気もいたしますが。 また、ハング・ファイヤ−はミック・ティラ−時代の作品のリメイクでした。 もうひとつ、このアルバムで重要なことはアルバムのミキシングをボブ・クリアマウンテンが担当しているという事。 当時、飛ぶ鳥を落とすほどの勢いであったこの売れっ子ミキサ−の手によって、スト−ンズが見事に蘇ったと言えなくもないのです。 決してスト−ンズの野性味を損なうことなく、時代の最先端の音を加味しておりました。 このボブ・クリアマウンテンはスト−ンズの他にもロキシ−・ミュ−ジックやデヴィッド・ボウイなどを見事に蘇らせて、日本からもわざわざ甲斐バンドがニュ−ヨ−クまで出かけて名作ゴ−ルド、虜などのミキシングを依頼しています。 そういえば、甲斐バンドの実質的なデビュ−アルバム、英雄と悪漢のジャケットはスト−ンズのディセンバ−ズ・チルドレンをモチ−フにしていました。 まっ、関係ないといえば関係ないですけど。 なにはともあれ、やっぱり彼らは80年代も元気だったと認識できた素晴らしいアルバムです。

  
もう一度あのブル−スを

スト−ンズのリズム&ブル−スの名曲というと数え上げたらキリがないのですが、私にとってもっとも印象深いのはデビュ−アルバムのスタ−トを飾っていたル−ト66です。 もともとはジャズのスタンダ−ドであったのですが、スト−ンズの敬愛するチャック・ベリ−がロックン・ロ−ルに仕立て直したものを彼らが取り上げた歌でした。 ル−ト66というシカゴから南部を経て西海岸まで果てしなく続くこの道自体が、まるでブル−スそのものを感じさせてくれるというものです。 飛び跳ねるようなビ−トとミック・ジャガ−のシャウトにブライアンのギタ−、それはリズム&ブル−スのうねりを充分に堪能させてくれました。 不世出のブル−ス・シンガ−、ロバ−ト・ジョンソンも歌っていたラヴ・イン・ヴェイン( むなしき愛 )も名演中の名演と言ってよいでしょう。 名作レット・イット・ブリ−ドの中でもブル−スらしいブル−スで、込み上げるような情感を押さえ気味に歌うミック・ジャガ−がとても格好良く見えたものです。 またこの歌は1960年代後期から1970年代の初頭おける彼らのライヴでも、極めて重要な地位をしめているナンバ−でありましてスロ−・ブル−スの極地を見せてくれましたっけ。 まるで、スト−ンズのオリジナルのように思えるタイム・イズ・オン・マイ・サイドも名曲中の名曲でしょうね。 オリジナルはノ−マン・ミ−ドの作で、ア−マ・ト−マスが歌ってヒットしたものです。 スト−ンズの場合典型的なシカゴブル−スというのは余り演っていないのですが、その代わりにリズム&ブル−スをカヴァ−した切ない歌を沢山残してくれています。 このタイム・イズ・オン・マイ・サイドもその範疇に入る作品でしょう。 最後になりますが、彼らにしては珍しいブル−スのオリジナル、ハ−ト・オブ・スト−ン。 この時代、スロ−テンポのブル−スを歌わせたらミック・ジャガ−の右に出るものはいなかっのではないでしょうか。 また、同じようにブライアン・ジョ−ンズの右に出るギタリストも居なかったのです。 決して、ブル−ス・ギタリストとしての評価は高くはないのですが、ことスト−ンズに関してはやはり彼でないといけなかったのではないかと思います。 もし、彼が今も生きていたなら他のメンバ−がきっとこう言うことでしょう。 ブライアン、もう一度あのブル−スをと。

  10 ・ スティル・ライフ

もはや、偉大なるロ−リング・スト−ンズと膨大に膨れ上がった観客を収容できるのはフットボ−ルスタジアムしかなかったのです。 映画「レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザ−」での冒頭の衝撃的なシ−ンを憶えておられる人も多いことだと思いますが、スト−ンズのライヴが何とまあ凄まじく巨大化したロック・イヴェントになっていたことか。 しかし、単なる産業ロックのライヴで終わっていないのはキャリアと純な情熱の賜物でしょう。 空に吸い込まれていく何千という風船も美しかったですね。 そして、青空の下でのスト−ンズの面々の健康的ないでたちに、少なからず違和感を憶えたのは私だけではないでしょう。 かつて退廃の極みと妖艶なる世界を凌駕していた人たちの姿とはとても思えなかったのですが、何故かしら太陽のもとのスト−ンズというのも妙にフィットしていて、これがもしかしたらスト−ンズの1980年代の本質なのかなと感じてしまいました。 それにしても、イントロがアンダ−・マイ・サムだなんてこれまた意外な展開でしたね。 スト−ンズのライヴのスタ−トソングとなると、それなりのコンセプトや策略があって然るべきだとついつい穿った見方をしてしまうのですが、これは心地よい裏切りだなあと思わず嬉しくなってしまいます。 しかし、もっと驚くべきことはこのアンダ−・マイ・サムがこの時代のスト−ンズのスタ−トソングとして見事にマッチしていたことです。 あの象徴的な情景に対等に立ち向かえるのは、ブラウン・シュガ−を除けばもしかしたらこの歌しかなかったのかもしれません。 そういえば、スト−ンズの初めてのライヴアルバム「ゴット・ライヴ・イフ・ユ−・ウォント・イット」の皮切りもアンダ−・マイ・サムだったですよね。 原点回帰という訳ではないのでしょうが、デビュ−して30年余りの年月が流れると必然的に基本を確認しようとするのでしょうか。 イントロとエンディングを除けば僅か10曲だけというスト−ンズのライヴアルバムとしてはかなり物足りない曲数なのですが、タイム・イズ・オン・マイ・サイドやレッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザ−等の懐かしのナンバ−もありまして、老若男女みっちりと楽しめる内容になっておりこの辺りは流石だなと唸ってしまいました。 巨大なライヴ・イヴェントを断片的に切り取る事により、かえってその規模を聴衆に意識させてしまう効果が絶妙だと思います。 まるで、歳はとってもまだまだ若いもんには負けないぜと言っているようですね。



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